一炊の夢
皆さん、こんにちは。
今日は中国の故事からのご紹介です。
「一炊の夢」という故事のことはご存じの方も多いと思いますが、その内容は次のとおりです。
■一炊の夢
街道沿いの茶店に一人の老人が休んでいました。名は呂翁といいました。
そこへ一人の若者がやって来ました。近くの村の盧生という青年です。粗末な身なりで、黒い馬に乗っています。田圃へ行く途中でした。盧生も、この茶店に入り、先客の呂翁と同じ席に腰を下ろしました。
初対面ではありましたが、何となく打ち解け、会話がはずみました。しばらくすると、盧生は自分のボロ服を眺めながら、大きなため息をついて言いました。
「男として生まれながら、みじめな有り様です。これからの人生を思うと情けない限りです」
「どうしたんだね。お前さんの体は、どこも悪いところもなさそうだし、今の今まで楽しそうに話していたじゃないか」
「何が楽しいものですか。毎日、ただ生きている、というだけです」
「では、どうなれば楽しいのかな」
盧生は、若き情熱をぶつけるように言います。
「立身出世を果たし、将軍や大臣となり、豪華な食事を前に、美しい歌声を聞いて、耳を楽しませたい。一族は繁栄し、一家ますます富んでこそ幸福といえるのではないですか。私も、ひところは学問を志しました。そのうちに出世がかなうと思っているうちに、もはや30歳となり、野良仕事にあくせくしている有り様。これが情けなくなくて、なんでしょうか」
言い終わったかと思うと、目がかすみ、うとうとと、眠くなってしまいました。
この時、茶店の主は、黍の飯を炊き始めたところでした。呂翁は、袋の中から一つの枕を取り出して、盧生に言います。
「お前さん、この枕をしてごらん。望みをかなえて進ぜよう」
盧生は、横になって、枕に頭を乗せました……。
数ヵ月経ちました。
盧生に、名門の家から嫁をもらう話が来ました。絶世の美人であり、実家は大金持ちでした。それからというもの、服装も乗り物も、日に日に派手になっていきました。
翌年、官僚の登用試験に合格。その後は、順調に出世街道をまっしぐらに進みます。知事や長官を歴任し、盧生は、大いに業績をあげたのです。
そのころ、北方から異国の襲撃をうけます。
皇帝は、盧生を見込んで軍司令官に任命し、盧生は軍隊を率いて外敵を撃破し、領土を広げました。盧生は華々しく、長安の都に凱旋しました。軍功によって官位は累進し、大蔵大臣、検事総長となりました。
その後、辺境に流されること二度ありましたが、中央や地方の高官を歴任し、政界に重きをなすこと50余年、まさに栄耀栄華を極めたのです。
やがて、寄る年波で、体も衰え、何度も辞職願いを出したが許されませんでした。それほど皇帝の信任が厚かったのです。
臨終の時が来ました。
盧生は皇帝に書を奉じます。
「私はもと山東の書生でありました。百姓仕事を楽しみにしておりましたが、たまたま官吏として登用され、過分のお取り立てにあずかりました。齢も80を過ぎ、余命幾ばくもございません。ご恩にお応えすることもできず、お別れを告げねばならなくなり、後ろ髪を引かれる思いが致します。ここに謹んで、感謝の意を表す次第でございます」
これに対して皇帝は、見舞いの勅使を派遣しましたが、その日の夕方に、盧生は死にました。 50年間といえど 振り返ればアッという間の出来事
「ああ、おれは死んだか……」
盧生は大きなあくびをして目を覚ましました。
名家の娘と結婚するところから、国家の元老として勅使を迎えて死ぬ まで、50年の間の夢を見ていたのです。
50年といえば、気の遠くなるような長い歳月のはずだ。それなのに、どうでしょうか。 茶店の主が炊いていた黍飯は、まだ、できていなかったのです。 盧生は、がばっと身を起こして、 「ああ、夢だったのか……」とつぶやきました。まるで自分に言い聞かせるように・・・。
呂翁は、笑いながら言いました。
「人生の楽しみも、そんなもんだよ」
盧生は頭を下げ、 「栄耀栄華、立身出世とはどんなことか、よく分かりました」と、礼を述べて、茶店を出て行きました。
故事の内容はこのとおりです。
さて、盧生はこのあと、どのような人生を送ったのでしょうか。ここから先がもっと大切かも知れませんね。
でも、一度くらいは、人生において「栄耀栄華、立身出世」をしてみたい気もしますね(*^^)v。
と言うところで、今日はこの辺で。
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